「いい大学を出て自分は頭が良いと思っている人たちは、自分がいかに恵まれているかをわかっていないお気楽な人たちである(前編)」

はじめに

自己啓発系の記事がアッパー系だとすると、本記事はかなりダウナー系です。

誰にでもある「自分の原点」にまつわるお話をします。

僕が警備員をやっていたころの経験談について書こうと思います。

とはいえ、話しの落としどころ自体はやや啓発系寄りです。

「いい大学に行って自分は頭が良いと思っている人たちは、自分がいかに運が良かったをわかっていないお気楽な人たちだ」というあたりに着地することを予定しています

・・・が、そんな単純な話だけで終わってしまわないように、何とかがんばってみます。

けっこう壮絶な具体例も交えて書いていきます。

目次

  • 警備員に至るまで
  • ふたたびゼロに戻った日
  • 清掃員では雇ってもらえない
  • ”僕の原点”としての知恵の遅いご夫婦
  • 次回予告

警備員に至るまで

僕が警備員をやったのは2009年の1年間のみです。

それまでの2年間はITエンジニアをやっていました。

さらにその前は短大の常任講師でした。

2006年に短大の教員を辞めた時
僕は、金輪際、「権威主義とプライドとマウンティングのサル山世界」からは絶縁しようと堅く覚悟していました。

当然、英語を使う仕事などには2度と就くまい、とも決意していました。

その後、この決心は崩れていくわけですが(泣)。

崩れ始めたきっかけは、ひょんなことからITの勉強を始めざるを得なくなったことにあります。

ハローワークで英語教育職を拒絶してしまうと、それ以外になんの特技もない僕には、職業訓練校へ行く他に選択肢がなくなったのでした。

「Webアプリケーション開発学科」というところに行ったのですが、当時はアプリケーションが何なのかもわからず、「どうせエクセルをちょいと教わって修了だろ」と高をくくって学校の門をくぐりました。

これが大きな勘違いでした。
この学科は、仕事に疲れたシステムエンジニアの逃避場所だったんですよね。

ネットの設定もできない奴が来る場所じゃなかったんです(汗)

そこで僕は「このド素人が!」などと同級生から背中に罵声を受けつつも

それでもやっているうちに次第に熱中してきてしまい・・・

エンジニアとしてのスキルを究めたくなってしまい・・・

職業訓練校の授業時間以外にもドトールで猛勉強し・・・

短期間で資格を取ったりしてしまい・・・

気づいたら、プライドとスキルのサル山世界に舞い戻ってしまっていました(汗)。

でも、自分がサル山に舞い戻っていることに気づくにはしばらく時間が掛かりました。

ふたたびゼロに戻った日

自分がサル山に戻っていることに気づいたきっかけはたった一日、ほんの一瞬の出来事でした。

電車を数分乗り遅れていなければ、この出来事には遭遇していません。

ある日、IT会社へ出勤する途中に電車を乗り違えてしまって、しばらく駅のホームで待ち時間ができたんですよ。

そうしたら、向こう側のホームを、知恵の遅いご夫婦が大声で話し合いながら歩いてきたのが見えたんです。

最初のうちは、
「知恵の遅い人たち同士の夫婦っているんだな。。。」
てなことを考えながらぼーっと見ていました。

無論、夫婦だというのは僕がそう思っただけであり、実際は兄弟なのかもしれません。。。

外見は、2人とも身長が150cmをかなり下回っている感じで、髪はぼさぼさ。上下のトレーナーに毛玉がすさまじく付いているといった格好です。年齢は30代くらいかな。

大声でしゃべっていたにもかかわらず、滑舌が悪すぎて会話はよく聞き取れません。

どうやら女性の方が「ジュース買う?」といっている模様です。

それに対して男性が「〇×★△・・・」(拒否してるっぽい)

ふたたび女性が「ジュース買う?」

男性「■◇★△・・・」

2人して駅全体に響くような大声でやりとりしていました。

しかし、彼らは周囲の視線をまったく気にしていないんです。

そして、とても幸せそうに見えました。

そのとき、僕に(大袈裟に言えば)天啓が降ってきました。

それは一言で言えば、

「お前はここでいったい何をやっておるのだ?」

です。

「また今から会社へ行って、エリートサラリーマンと小難しい技術の話をするつもりか?」

「せっかく手に入れた研究者のポストを捨てたのは、そんなことのためなのか?」

「お前が目指していたのは、あの2人がいる場所じゃなかったのか?」

「せっかく辞めたのに、またプライドと出世とマウンティングのサル山に舞い戻ってきやがって・・・このどアホが」

という考えが頭をめぐりました。

***

そのあと、しばらく呆然と駅構内の無印良品で時間をつぶした記憶があります。なんとか心を落ち着けたかったのではないかと思います。

しばらくしてから、携帯で「欠勤」の連絡を入れて、その日は家に帰りました。それから数日してエンジニアを辞めました。

そしてまたハローワークに通い始めたんです。

ふたたび「迷いの道」が始まりました。

清掃員では雇ってもらえない

短大を辞める前、僕は、自分を「経歴」というよろいで武装しまくって、世間体を気にしながら偉そうに生きているのがもうほんとに嫌だったんでした。

このよろいは僕自身の弱さそのものです。

英語やら留学やら学歴やらで出来上がったこのよろいをなんとか脱ぎたいと思って辞めたはずでした。

なのに、気づいたらまたIT技術という装甲を厚くし始めていたんですよ。

同じ間違いを何度も繰り返しやがって・・・まったく・・・

(ちなみに現在も、翻訳家という形で同じ間違いを繰り返している最中です 汗)

ともかくエンジニアを辞めた後は、スキルのいらない、だれでもやれる仕事に就こう。

あの知恵の遅いご夫婦がやれるような仕事に就こう、と本気で思っていました。

それで、まずはハローワークで、トイレ掃除の求人に応募することにしたんです。

しかし、係りの女性から嫌な目で見られただけで、速攻、不採用となりました。

「トイレ清掃は女性しか募集していません」とのこと。

つまり、どういうことかというと・・・

まあ、ヘンタイ扱いされてしまったわけですね(汗)。

男が・・・しかも履歴書に大卒で修士号を2つ記載している男が「トイレ清掃」を志望してきたら

これはもう即、変態扱いなわけです(汗)。

僕自身は、前出のご夫婦に衝撃を受けて、本気で自分の殻を破ろうとしているだけなんだけど、世間から見ればタダのヘンタイだったんですよ。

本記事で、役に立つポイントはありませんが、唯一あるとすればこの点でしょう。

大卒の男性はハローワークでトイレ掃除の求人に応募しない方がいいです。
かなり冷たい目で見られます。

よし!

トイレがだめなら、警備員で行こう!

ということで、それでめでたく採用されたのでした。

***

ところで、その日のハローワークには、必死にIT職を探している若い男性がいたのを覚えています。

やはり、「やれることにしがみつこう」とみんな思うんだな・・・なんて考えた記憶がありますl。

それから僕に話しかけてきたおばちゃんもいました。

「あたしらは清掃以外に仕事がないのよ!」

と言ってました。

「これは誰でもやれる仕事なのよ。兄ちゃんは、もっとましな仕事が他にあるでしょ?」

と言われたのを覚えています。

”僕の原点”としての知恵の遅いご夫婦

井上雄彦先生の漫画『バガボンド』の中に、“おっさん穴”というエピソードがあります。

あれ、僕なりにすごく共感できる感じがするんです。

ちなみに、“おっさん穴”というのは、作中で、宮本武蔵自身の心の原点であり、原風景を指す言葉として使われています。

具体的に言うと、”おっさん穴”とは、武蔵が無名時代に、修業した山中のある場所の名前です。

彼はある日、山中の洞窟の中で、無名の侍が刀を抱いて息絶え、白骨化しているのを発見するんです。

彼は、その侍に自分を重ね合わせ、やがてその白骨の侍が武蔵の生きざまのロールモデルとなります。

この洞窟の周囲で、天衣無縫に剣を振り回して修行した経験が、彼の生涯の原点になるんですね。

その後、天下無双と呼ばれるようになってからも、自分を見失いそうになると、武蔵はあの「おっさん穴」を思い出すことで、自分を取り戻します。

そういう原点のイメージは、誰にでも何かしらあるんじゃないでしょうか?

少なくとも、僕自身のおっさん穴は、まちがいなくこの「知恵の遅いご夫婦」なんです。

今でも、どっちに行けばいいのか迷ったときによく思い出します。

心の北極星みたいなもんです。

次回予告

さて、以上の話が誰かの心の琴線に触れるかどうか、はなはだ疑問ではあります。

自分でもうまく言葉にできていないのを感じます。

しかし、僕自身が、真剣に悩みに悩んだのはまちがいなく、
また、僕が人間であることも間違いない以上、
ある種の普遍的なテーマに、どこか通じている面があるのではないかとも思っています。

少なくとも僕自身は、誰かが自分の原点について語ってくれれば、それをぜひ読みたいと思います。

だから、自分みたいな誰かがここを訪れた時のために、この話を記しました。

さて、本記事では、警備会社で出会ったO沢さんの壮絶な人生について書いていくつもりだったのですが、知恵の遅いご夫婦の話だけで3000語を越えてしまいました。

孤児院出のO沢さんの思い出話は、次回に続きます。

ABOUTこの記事をかいた人

松山市生まれ、埼玉県在住 京大大学院博士課程中退 カンザス大学修士号 元短大教員 元警備員 元ITエンジニア 現在はウェブ翻訳家 以前は短期大学で常勤講師をやっていました。一生その路線で行くつもりだったのですが、思うところあって退職。その後は、コンビニのバイトを面接で落とされたり、警備員をやって深夜の霊園に怯えたり、ITエンジニアをやったりと迷走しつつ、現在はウェブ翻訳家に落ち着いています。