「人間椅子」という伝説的なロックバンドがあります。
今年6月にニューアルバムが出たとのことで、ギター&ボーカルの和嶋慎治さんがあちらこちらのメディアに露出されていました。
僕はロックのことはぜんぜん詳しくないのですが、過去に和嶋慎治さんのブログを愛読していた時期があります。それで久しぶりにTVなどでお顔を拝見して大変なつかしく感じたので、あらためてそのブログの全記事(全18回)にアクセスして通読しました。今回はその感想です。
今回言いたいことはたった一つで「一生心に残るブログ記事というものがあるんだな」ということです。
和嶋慎治さんのブログ(正確にはコラム)のURLはこちらです
http://www.beeast69.com/column/wajima/2601
このコラムは、2009年10月15日に第1回がアップされ
2014年12月5日の最終回(第18回)で終了しています。
僕が読み始めたのはたしか第3回がアップされた頃だったと記憶しています。
連載期間が5年に渡ったのに対して記事数はわずか18回です。
単純計算すると100日に1回更新された勘定になりますが、実際には2か月おきに更新されていた時期もあれば、10か月、または1年あいだが空くこともありました。
1年にわたって更新が止まっていたあいだも1か月に1度は覗きに行っていました。
それぐらい惹かれていました。
この記事では、和嶋慎治さんのコラム「浪漫派宣言」の魅力紹介しつつ、自分はどういうブログに惹かれるのだろう、その根本にあるものは何だろう、ということを考えてみました。
目次
- 和嶋さんのコラムの魅力
- 第5位: ’ヤマさん’のことを思って路傍で泣き崩れていた頃の話
- 第4位:大学で参禅部に入っていたころの話
- 第3位:後輩バンドマンとコミュニケーションができなかった話
- 第2位: レコーディングしたい一心で離脱症状に耐えて断酒した話
- 第1位: 孤独のあまりアパートの部屋をゴミ屋敷にしてしまった話
- 青春真っただ中の人
和嶋さんのコラムの魅力
いきなりですが「浪漫派宣言」の魅力は、和嶋慎治さんという人間の魅力だと思います。
和嶋さんの魅力は、精神の危うさと、不器用さと、それをさらけ出す真摯な人柄にあると思います。
それとギタリストとしての凄みとのあいだのギャップでしょうか。
”浪漫派”というタイトルにも表れていますが、そもそも「人間椅子」というバンド名だけでも説明が必要ないくらいに独自の世界観が表れています。
また、動画を見ればわかりますが、少なくともここ10年はステージ衣装として和服を着用しており、まるで華道の師匠を思わせる装いでギターを弾きまくっています。
ハードロックで大正ロマン。このあたりも独特です。
さて、当のコラムの連載開始時は、和嶋さん自身が”精神的にだいぶ参っていた”(第10回)と書いているような時期だった様子です。
大切な肉親を失った直後だったらしく、かなり精神のバランスを崩されていたようです。
ただし、そういった事情に関わらず、大学時代のエピソードなどを読んでいても、元来がまじめで繊細で、不器用で、それゆえに危うい面をずっと持ち続けている人なのだろうと思っています。
そういう中で開始されたコラムですが、深く思い出に残っている箇所Best5を以下に挙げてみました。
第5位: ’ヤマさん’のことを思って路傍で泣き崩れていた頃の話
>ヤマさんは少し頭の働きが弱く、「チッチッチッ」としか言葉を発音することができない。
>自分は家庭を築けないとでも決めていたのだろう、ヤマさんは一人の男としては、誰をも愛さなかったし誰からも愛されなかった。でもヤマさんはその無垢の笑顔でもって、周りに温かいものを振りまき、皆に好かれ続けた。
>やがてヤマさんは体を壊し、会社を辞めていった。晩年は人の好さが災いしてか、他人に持ち物を搾り取られるような形で、跡に何も残さず、消えるように亡くなっていった。
>ヤマさんのことが頭から離れない。悲しくて悲しくて、どうにも足を前に進められない。道すがら、ビルの隙間や空地を見つける度、くずおれるようにそこに腰を下ろし、ヤマさんのことを思って、声を上げて僕は泣いた。
http://www.beeast69.com/column/wajima/13
僕も、以前に警備員をやっていたころの話をアップしたことがあります。
あれは、和嶋さんのコラムの連載に出会うよりも以前の体験をつづったものなのですが、今、彼のコラムを読んでみてあらためて、世間に対する自分の立ち位置というか、目線というか、何か似た匂いを感じてしまいました。
第4位: 大学で参禅部に入っていたころの話
この頃の和嶋さんはすでに相当のギタリストだったと思われます。
それが大学時代は、廃部寸前の参禅部に入って座禅を組んでいたという・・そのあたりがすでに魅力的というか、不器用というか、真摯というのか、その人となりがよく表れていると思います。
途中、参禅部で異彩を放っていた友人が精神のバランスを崩した話が語られています。
>F君は、坐ることに抜群のセンスを持っていた。センスという意味合い、分かってもらえるだろうか。(中略)例えば鈴木大拙が‥‥道元禅師が‥‥と薀蓄をいくら垂れたところで、いざ坐るとなるといつまで経っても落ち着きのない人がいる。F君は坐禅という器にピタッとはまっている感じで、誰もが彼に一目置いていた。
>F君は鋭敏すぎたのかもしれない。(中略)彼のいうには、夜更けになると寝室にしばしば聖人が訪れてくるようになった、時には魂が抜け出し、世界中に旅行もしている──。
>F君は本格的に精神に変調をきたし出し、やがて学校にも来なくなった。
http://www.beeast69.com/column/wajima/15445
“座ることのセンス”という表現が忘れられません。
第3位:後輩バンドマンとコミュニケーションができなかった話
この話も、和嶋さんの不器用で繊細で真摯な面が、読み手にも緊張を強いるエピソードです。
>繁忙期になると、短期のアルバイトがやってくる。(中略)一人、明らかにバンドをやっていると思われる人間が入ってきた。担当はギターだろう。・・・どうやら表情からいって、僕が人間椅子のギターであることにも気付いたようだった。
>彼ら二人とも、僕と話したそうにしている。謙虚な若者たちで、僕に気を使ってくれているらしく、自分たちから話しかけるべきではないという空気が、ありありと伝わってくる。
>だんだんと、休憩時間が休憩ではなく、緊張を強いる状態になってきた。いったい僕は、何に拘っているのだろう。ただこちらから、親切に話しかければいいだけのことではないか。
>「やあ、バンドやってるっぽいね。オレもギター弾いてるんだよ」たったその一言が、言えない。今日こそは言おう、明日こそは話しかけようと思っているうちに、雇用期間が終わったらしく、彼らはいなくなっていた。
>このことは、ずいぶんと長い間、僕の心の中に滓のように残った。僕がしてあげられるはずの親切をできなかったという、この不甲斐なさ。
http://www.beeast69.com/column/wajima/88
この2人組みはやがて「毛皮のマリーズ」というバンドだとわかり、フェスで再開して当時のことを謝って共演する様子が別の回で語られています。
第2位: レコーディングしたい一心で離脱症状に耐えて断酒した話
>突然右手が震えだした。寒いわけでもないのにと不思議に思い、左手で押さえてみる。もういい頃合いかと思って手を離してみるが、やっぱりまだ震えている。なんだか合点のいかぬまま部屋に戻り、いつものように酒を飲んだ。右手の震えが止まった。
>何度、酒に手を伸ばしかけたか分からない。この頭痛も、吐き気も、身体の不快感も、一杯の酒があれば救われる。それはもうはっきりしている。その一杯が四合五合にはなるだろうが。(中略)その都度僕を押し留めたものは、数ヶ月先に迫っているレコーディング、これを成功させたいという、ただその一点のみなのだった。
http://www.beeast69.com/column/wajima/2603
このエピソードは素直に「すごいな、自分とはちょっと違うな」と感じます。僕ならきっと飲んでしまったことでしょう。断酒というのは、抗酒剤や断酒サークルなどの力を借りなければなかなか続かないもののようです。
音楽への思いが一線を越えています。
こういう人だからああいうギターが弾けるのでしょうか。
第1位: 孤独のあまりアパートの部屋をゴミ屋敷にしてしまった話
>ひと頃、僕が精神的にだいぶ参っていたというのは、このコラムを読んでいる方ならお分かりと思うが、その頃から部屋が片付けられなくなった。ゴミ屋敷ゴミ屋敷と簡単にいうけれども、僕にはその住人の気持ちが痛いほどよく分かる。あれは、愛の欠乏、孤独からくるものです。
>あまりに寂しくて、物でもいいから手元に置いておきたくなる。または、捨てる気力さえおきなくなる。(中略)さらに、ゴミに囲まれていると、寂しい心を包むようにうっすらと、やや暖かい。
>床面はゴミで地層ができたようになっている。これが冬の凍てつく冷気の中、あたかも地熱を発したかのように生暖かいものだから、またもやゴミ捨てを先延ばしにしてしまう。
http://www.beeast69.com/column/wajima/2827
ゴミのことを”やや暖かい”と書いているところが、たぶんこのコラムの中で一番僕の心に残っている箇所だと思います。
こういう感じ方ができる人、それを言葉にできる人、それを隠さずに世間に出してしまえるような人のことは、僕は全面的に信用してしまうところがあります。
ところで、各コラムには、ニーチェ、ポー、ヘルダーリン、ロマン・ロラン、ゴッホ、色川武大、坂口安吾、夢野久作、HPラヴクラフトといった名前が遠慮なく登場してくるので、拒否反応を感じる人は感じるかもしれません。
でもそういうところを抑えてない点も含めて僕は好きです。
青春真っただ中の人
テレビ神奈川の深夜帯に「関内デビル」という番組があるんですが、こちらにもアルバムとツアーの宣伝で5月に出演されていますね。
深夜のバラエティー番組なのにいきなりロマンロランの「ベートーヴェンの生涯」を熱く語りだしているあたりは、本当にいつまでも青春真っただ中の不器用な和嶋慎治さんそのものだと、数年ぶりに姿を拝見して嬉しくなりました。
一見人のいいお爺さんみたいですが、ギターを弾き始めれば誰もが黙る迫力です。
だからこそ許される無防備さなのかもしれません。他の人がやってもこんな風に格好はつかないよな、とも思えます。

素人にも分かる超絶テクニックはこちら
クリムゾンのカバーです。
全体が聴きどころですが、特に4:00あたりからは「これで参禅部はないだろ」と思う・・・
しかし、これだけの力あっても食えなかったという話は、関内デビルでもしているし、他のコラム記事にも書かれています。
別のコラム記事には、(たしか2012年)ももいろクローバーZに楽曲を提供したという話が出てきますが、Wikipediaによればそのころからようやく売れ出したということらしいです。
ニューアルバム「新青年」のビデオクリップはこちらです。
別の記事に
> リンゴ・スターのコンサートを見に行った。会場がお台場方面だったので、その帰路、レインボーブリッジをスクーターで渡っていたら──ああ、僕はまったく青春の只中にいるな──不思議な感慨で全身がいっぱいになった。
とあります。
普通、50過ぎのおっさんが”青春”などと言ったら、若ぶって何か勘違いしているな、と思いますよね。でも和嶋さんは本当にそう感じているのだと僕は思います。
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