今回は、トライアルに合格した後の話をするつもりだったのですが変更します。
合格に至るまでの方がたいへんだし、そこをもう少し掘り下げた方がいいと思いました。
何度もお伝えしてきましたが、実力を上げるために一番良い方法は、アメリア
の定例トライアルを受けまくることです。
ただし、他にもサプリメント的に、というか、ある程度体系的に翻訳を勉強したいというニーズに合わせておすすめの参考書を紹介します。すでに紹介した2冊も含めて、どういう順序で、どういう段階で手に取るのがベストなのかを、もう一度整理しておこうと思います。
目次
- 定例トライアルが王道
- おススメの参考書
- 英文法を復習するための本
- 翻訳の入り口
- 誤訳を防ぐ
- 実務トライアル向け
- 契約書関連
- マーケティング関連
- おまけ (ぶ厚い文法書)
- おまけのおまけ (究極の文法書)
- まとめ
定例トライアルが王道
繰り返しますが、参考書の自学自習だけで実力を上げようと考えるよりも、プロからフィードバックをもらい、他人と切磋琢磨した方が上達は早いです。
それには、アメリアの定例トライアルをひたすら提出し→復習し→また提出→また復習のサイクルをまわしていくのが、一番いいと思いますし、僕はそうやってやってきました。
僕もまだ稼げていなかった頃、アメリアの情報誌を読むと、そこにある先輩翻訳家から後輩へのアドバイスとして「定例トライアルをひたすら受けましょう」と書いてありました。僕はそれを信じてやってきたのですが、あれで間違いなかったと思います。
その上で、定例トライアルの上手な受け方として、実務翻訳を目指しているからといって「IT」や「ビジネス」のばかりを受けるのではなくて幅広く「ノンフィクション」や「フィクション」、「映像」などにも挑戦することをお勧めします。
「ノンフィクション」では、なんといっても調査力が鍛えられます。
「フィクション」では、細部の読み込みや日本語表現力がシビアに問われます。
「映像」では、ぎりぎりまで言葉を削っていくセンスが磨かれるでしょう。
こうしたトレーニングすべてが、実務翻訳家としての基礎力につながります。
まして、「在宅ワーカーの稼ぎ方(応用編) – AIにどう対処すればいい?」でも書きましたが、最近は実務翻訳家にもクリエイティブな表現力が求められるようになってきています。ですから、「フィクション」や「映像」のトレーニングはむしろ必須になりつつあるとも言えます。
そしてもちろん、定例トライアルは単に受けまくるだけではなく、復習が絶対に必要です。むしろ、復習しないのなら受けても意味はない、とまで言い切れます。
受験時にはギリギリまで訳文を練って、自分のマックスの訳文に仕上げましょう。その上で、解答解説を読むと、力がつきます。
ギリギリまで頑張った上で間違えてしまった箇所は、解説も頭にしみこんできます。
よくプロ野球のピッチャーが、「ホームランを打たれた球のことは一生忘れない」、と言いますよね。
あれと似ていて
「これ以上は自分にはできない」というギリギリまで悩んだ上で提出して、それでも誤訳してしまった箇所のことは僕もずっと覚えています。
それくらいのテンションで毎月の定例トライアルに参加していれば、実力は自ずからアップしていきます。
おススメの参考書
ですが、僕も定例トライアルしかやっていなかったのかというとそんなことはありません。
ある程度体系的に翻訳を学ぶための参考書も使いましたし、本場トライアルのノウハウを身につけるための書籍を活用したこともすでに(その4)や(その5)でお伝えしました。
これまでは、参考書についてやや散発的に取り上げてきたので、このあたりで一度まとめておきたいと思います。
ちなみに、本記事では英作文の参考書は除外しています(いずれ別途紹介します)。
英文法を復習するための本
山口 俊治 『英文法講義の実況中継(1)(2)』
定例トライアルでなかなかCレベルから上に上がれない人は、ぜひこの本に目を通してみてください。次のステージに上がるためのヒントが得られるはずです。
この本で焦点が当てられているのは、英文構造の基礎であるS+V構造です。
日本語は主語をあいまいにする言語ですが、英語は違いますよね。断片的なフレーズにも必ず想定上の主語が隠されています。
この点をしっかり押さえることで、誤訳を防げます。
そういうことの大切さをしっかりと復習できる内容になっています。
また、「時制の概念」や「法の概念」なども日本語とは異質なものですが、本書では紙幅を割いて丁寧に解説されています。それらを復習するにも最適です。
なお、僕が持っているのは旧版で(上)(下)に分かれているのですが、新版でも旧版でもどちらでもいいと思います。
ちなみに、この本が受験生にとってベストな参考書かどうかはわかりません。
受験に必要な文法事項を網羅的に扱っている本ではありませんので、そういう目で見れば他にもいろいろ選択肢があると思います。
ただし、翻訳家を目指す人が文法を再確認するにはこれが最適だと思います。
つまり、誤訳を防ぐために文法概念を押さえなおすという目的です。
本書は語り口調で書かれており、スラスラ読める「読む文法書」となっている点もGoodです。
ぶ厚い文法書を隅から隅まで読んでも、時間が掛かって苦痛なだけで、現実的ではありません。
細かな語法などについては、ぶ厚い文法書を手元に置いておいて、その都度確認すればそれで済みます。
(ぶ厚い文法書のおススメについては、本記事の末尾にオマケとして掲載します。)
すべての翻訳者の入り口
安西徹雄 『英文翻訳術』
本書の一応の対象レベルとしては、 定例でCからBのあいだ位でしょうか。 誤訳は防げているのだけれど、英文和訳の域を脱していない人向けです。
ただし、翻訳家を目指している人なら、レベルはさておき一度はやっておいても損のない本だと思います。
英文を自然な日本語に置き換えるための処理の技術が、文法項目ごとに丁寧に解説されています。
僕自身は、全問の原文と模範訳をExcelにタイピングし、その横に自分の訳文を入れて自己採点。さらに、それを2周しました。いずれ初心に帰ってもう1度やる予定です。
誤訳を防ぐ
越前敏弥 『日本人なら必ず誤訳する英文』
越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文 (ディスカヴァー携書)
ダヴィンチコードシリーズの翻訳で知られる越前敏弥氏の翻訳解説書で、出版当時、当時かなり話題になりました。
なかなか挑発的なタイトルですが、実際、定例トライアルでAレベルを安定して取れている人でも、ぼろぼろ誤訳すると思います(笑)。実際、そういう英文ばかりが140問厳選して掲載されています。
この本は、定例トライアルで言うと、BレベルとAレベルのあいだにいて、ときどき誤訳してしまうような人
またはAで安定しているのだけど、もう1つ上を目指したい人向けです。
定例トライアルだけではどうしても誤訳が防げないという悩みを抱えたときに、集中的に取り組むのがいいと思います。
僕自身ははまだ1通りしかやっていないので、もう1周は必ずやると思います。
実務トライアル向け
以上の3冊は、実務翻訳だけではなく、どの分野に行く人でもやっておいて損のない本です。
これから先は、実務翻訳に特化した参考書になりますが、これらはすでに、この記事シリーズの(その4)、(その5)で紹介したものです。
再度掲載します。
コンピュータ翻訳入門 アルク翻訳レッスン・シリーズ [実務翻訳]
この順序でやるのがいいと思います。
契約書関連
以上で5冊ですが、他にも実務翻訳者を志す人が勉強しておいた方がいいい分野として契約書翻訳とマーケティング翻訳があります。
契約書には独特の言い回しがあり、それ専用の勉強が必要です。
本格的な契約書は、法律に詳しい契約書専門の翻訳家の方が担当する場合がほとんどだと思いますので、通常の実務翻訳家が関わることはおそらくないと思っていいのですが、それでも通常のドキュメントの中で契約書っぽい文言に遭遇することは多々あります。
たとえば、「クリックして次に進むことにより、これこれに同意したと見なされます」みたいな文言ですね。
あるいは、カスタマーサービスの文書で契約内容に触れながら問い合わせに回答する文書など。
そういったものを的確に処理できる力があれば、仕事の幅が広がるので契約書はぜひ勉強しておきましょう。
ただし、僕もいろいろ参考書は目を通したのですが、これといってお勧めのモノはありません。内容が古い場合も多く、そのまま勉強しても微妙な感じです。
1番役に立ったのは、定例トライアルの「ビジネス」です。
「ビジネス」トライアルでは、だいたい2回に1回は課題に契約書が取り上げられています。
内容も新しいし、これで勉強するのが一番です。
過去問を研究して、定例トライアルを受験し、Aが取れるようにしておけば安心です。
契約書には決まった言い回しがありますので、そこさえつかめれば、他の分野よりも早めにAレベルに到達できるでしょう。
また、僕自身は、自分が受験した契約書定例トライアルの課題文を数回分、テキストに変換して模範訳と共にエクセルに貼り付け、データベース化しています。
仕事の最中に「ちょっと怪しいな」と思うときにはこのエクセルシートを検索して言い回しを確認するようにしています。
マーケティング・コピーライティング関連
現時点で、マーケティング翻訳やコピーライティングに関する定番の翻訳参考書は見当たりません。
僕自身、前出の記事で触れている通り、現在勉強中です。
そのうち、めどがついたら、参考書にお勧めできそうな書籍は別途レビューしたいと思います。
おまけ
ぶ厚い文法書の定番は
江川泰一郎 『英文法解説』
綿貫陽 他 『ロイヤル英文法』
あたりでしょうか。
僕はどちらも持っていますが、とりあえず片方あればいいと思います。
ちなみに、ネット検索でも数々の英文法サイトがヒットします。
それらのサイトにも、大体上記の本に書いてあるのと似たり寄ったりの内容が書かれていますので、それでもいいといえばいいのですが、ウェブサイトは内容が偏っていたり、細部が怪しい場合もありますので、上記の本を参照した方が安全だと思います。
おまけのおま け
日本語で読める英文法参考書の最高峰として
安藤貞雄 『現代英文法講義』というものを挙げておきたいと思います。
やや高価なので、駆け出しの段階で揃える必要はないと思いますが、教える側に立った時など、大変に優れた本です。
上述の「英文法解説」や「ロイヤル英分法」や、その他のウェブサイトは、どれをとっても、まあはっきり言って、似たり寄ったりのことしか書いてありません。
いわゆる学校文法というやつです。
しかし、この本は違います。最新の文法理論に基づき、他の本のどこにも書いてないようなことがたくさん書いてあります。
正直言いますと内容が高度過ぎて、僕自身、読んでも理解できない箇所が多々あります(汗)。それでも、この本にしか書かれていない情報で助けられたことが結構あるので、最後に記しておきました。
職業翻訳者として順調に仕事が回ってくるようになったら、この本に投資しておいても損はないでしょう。
この「現代英文法講義」に比べれば、世間に流通している残りの文法書やウェブサイトは、どれも全部似たり寄ったりで大差ないという感じです。本書には、それくらい段違いの内容が記されています。
まとめ
全翻訳分野共通の参考書
『山口俊治 英文法講義の実況中継(1)』・・・文法の復習用、読める文法書。
安西徹雄
『英文翻訳術』・・・一度はやりたい本
越前敏弥
『越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文』・・・さらに上を目指したい人向け
実務翻訳翻訳向け
『コンピュータ翻訳入門』・・・IT翻訳の基礎+トライアルの要領がわかる
『トライアル現場主義!―売れる翻訳者へのショートカット』・・・トライアルについて実践的に学べる
契約書
推薦書なし(「アメリア」の定例トライアルがベスト)
コピーライティング・マーケティング
現時点で参考書なし
(ゆる子Aもただ今勉強中です)
ぶ厚い文法書
どちらか持っていると安心だが、その他の文法書や各種ウェブサイトも含め大差なし。
オマケ
『現代英文法講義』
究極の文法書はこれ。大型書店などで一度覗いてみてください。
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